教員向けの演劇ワークショップが開催されました!

1月27日に奈義小学校で教職員向けの演劇ワークショップが行われました。講師は、奈義町「教育・文化のまちづくり監」である、劇作家の平田オリザさん。5月にも同じ会場で教職員向けの演劇ワークショップを開催しており、今回が2回目です。

まず先生方にA4一枚の台本が配られます。前回のワークショップは身体を使った遊びがメインでしたが、今回はいよいよ台本を使った演技をしてもらいます。台本を黙読する先生方には緊張感が漂っています(笑)。

配られた台本には、列車の中での何気ないやりとりが描かれています。ボックス席でAさんと知り合いのBさんが向かい合って座って、お喋りをしていると、見知らぬCさんが歩いてきて「あの、ここ、よろしいですか」と座ってくる。Cさんを気にするAさんは「旅行ですか?」と話しかける――――。

このA4一枚の台本から、平田さんの「目から鱗のコミュニケーション論」が始まります。

高校生にこの台本を読んでもらうと、この「旅行ですか?」の台詞をうまく言えない生徒が多いそうです。妙に馴れ馴れしくなったり、逆に力が入ったり。そこで高校生に、実際に電車に乗り合わせた見知らぬ人に声をかけることがあるかを尋ねると、圧倒的に「声をかけない」の方に手を上げる。

しかし、声をかけない高校生でも「場合によって」は声をかけます。たとえば、乗り合わせた女性が赤ちゃんを抱っこしており、赤ちゃんがこちらに笑いかけてきたら。ここで無視をしたら冷たい人になってしまいます。

「旅行ですか?」の台詞をうまく言えない人でも、相手役や環境を変えることによってうまく言えるようになるのではないか。平田さんは台本を読んでいる先生方に演出をはじめます。 まずCさん役の先生に小道具としてサッカー雑誌を持ってもらいます。そして、以下の台詞を付け足します。

A「サッカー好きなんですか?」

C「えぇまぁ」

A「どうですかね、代表チームは」

C「まぁ、がんばってほしいですね」

A「……旅行ですか?」

このようにお互いが同じ趣味趣向であることがわかる会話を付け足すと、高校生でも比較的スムーズに「旅行ですか?」という台詞を言えるようになるそうです。「旅行ですか」という台詞をうまく言えない人本人ががんばるのではなく、周りの人が話しかけやすい環境を作ることが重要になってくるわけです。

平田さんのお話には「コンテクスト」という言葉がよく出てきます。

コンテクストというのは、「その人がどんなつもりでその言葉を使っているか」の総称です。わたしたちは同じ日本語を話していても一人ひとりが違う言葉を話しており、そういった話し言葉の個性のことを指します。つまり、高校生が「旅行ですか?」という台詞をうまく言えないのは、「旅行ですか?」という言葉がコンテクストにないから。

コミュニケーションを考える上でこのコンテクストはとても重要になってきます。世の中には何らかの理由で理路整然と気持ちを伝えることができない人々がいます。子ども、お年寄り、生活困窮者など。平田さんはよく学生に「論理的に喋る能力を身につけるよりも、論理的に喋れない立場の人々の気持ちを汲み取れる人間になってもらいたい」と話すそうです。コンテクストを理解する能力こそ、コミュニケーション能力の要なのかもしれません。

演劇を授業に取り入れたコミュニケーションの意義から、普段の子どもとの接し方についても考えさせられる、知的刺激に溢れた楽しい演劇ワークショップでした。 (菅原)