奈義中学校にて、コミュニケーション教育が行われました。

11月14日(火)、奈義中学校体育館にて、中学1年生を対象にコミュニケーション教育が行われました。

講師を務めてくださったのは、東京で活動されているNPO法人PAVLICの林さんと河野さんのお二人。

NPO法人PAVLICは、パフォーミング・アーツ(=舞台芸術表現)を通じた体験型参加学習を行い、子供たちや地域の人々、企業などの組織におけるコミュニケーション力の育成を促し、活力あるコミュニティづくりを目指している団体です。第一回に引き続き、今回も遠方東京からお越しくださり、演劇を通じてコミュニケーションを学ぶ授業を行ってくださいました。

 

趣旨

今回の内容は題して「イス取り大作戦~イスに座って本を読んでいるこーちゃんを立たせよ!」

ゴールは、生徒たちでシナリオを作り、即興劇で、イスに座って本を読んでいる講師の河野さん(通称こーちゃん)を立たせようというもの。

こーちゃんは基本いい人ですが、本を読むのに夢中になっていて納得できる理由以外では簡単には立ってくれません。

こーちゃんの役割は決まっておらず、生徒たちが考えたシナリオに合わせてどんな役でも即興で演じてくれます。

※シナリオ例:場所は電車内。席に座って読書しているこーちゃんの目の前に、生徒扮する妊婦の奥さんとご主人が立っているのですが、どうも妊婦の奥さんの調子が悪そう。

ご主人はそんな奥さんが心配で空席を探しますが、なかなか見つからない様子。果たしてこーちゃんは席を譲るのでしょうか・・・。

 

ルール

まず、生徒たちで4人グループを作り、以下4つの役割分担をします。

Aさん:リーダー(練習の時、アイデアや構成などの指揮をとる監督役)

Bさん:役者(劇に出演し、セリフを言うことができる人)

Cさん:役者(劇に出演するが、セリフは無く、ジェスチャーのみで表現する人)

Dさん:こーちゃん役(練習の時に、こーちゃん役をする人)

4人でこーちゃんを立たせることができるシナリオを考え、練習します。

劇の出演者は、こーちゃん、Bさん、Cさんの3人。制限時間は90秒。

本番まで何も知らないこーちゃんに、短い制限時間内でシナリオ設定を理解させ、かつ、こーちゃんの良心に訴えかけられるかどうかが鍵になります。

 

グループ分けが終わり、作戦タイムスタート。

 

お題と役割を与えられ、生徒たちは生き生きとした表情で作戦会議をしています。

どんな演技を見ることができるのか楽しみです。

作戦会議と練習が終わった後は、こーちゃんの代役を務めているDさんを他グループと交代して、このシナリオと演技でこーちゃんに伝わるのか真っさらな目でチェックしてもらいます。

準備がすべて終わると、いざ本番。

生徒たちの熱のこもった演技で、体育館に歓声や笑い声がこだまします。

短い時間でシナリオを考え、準備したとは思えないクオリティ…!

シナリオや配役も多種多様で、足腰の弱ったおばあさん役や、読みたい本に手が届かない少年役、こーちゃんの昔の教え子役など、

生徒たちが様々な役に変身し、こーちゃんを立たせるべく迫真の演技を披露しました。

観客の生徒たち、先生たちも、心の中で「立つか?立つか?」とドキドキしながら、演劇を楽しんでいるようでした。

 

 

結果は・・・

こーちゃん立たず。

 

 

「これは立つんじゃないか?」と、惜しかったグループもありましたが、残念なことにこーちゃんは一度も立つことなく全グループの演劇は終了となりました。

グループ発表を終えて

「こーちゃんのような価値観の違う人に対しても、粘り強く関わろうとする姿勢が、奈義中学校の生徒の良いところ」

最後の講評の時間、講師のお二人からの言葉です。

各グループごとによかった点やアドバイスをいただき、生徒たちはそれを興味津々で、しかし半ば悔しそうに聞いている姿が印象的でした。

最後に一本締めをして第2回コミュニケーション授業は終了。

 

見学を終えて

今回の授業を見学して、私は次の2つのことを感じました。

 

①     みんなの「普通」は少しずつ違う。

「こうすればきっとこーちゃんは立ってくれるだろう」という生徒たちにとっての「普通」と、「この状況だったら立とう」というこーちゃんにとっての「普通」は違うということ。

その違いに対して、「なんで立たないんだ」とイラついてしまったり、普通じゃない「変わってる人」だと遠ざけてしまったり、ついついそんな反応が出てきてしまうことがあるかもしれませんが、

それでこーちゃんとのコミュニケーションを諦めてしまうのではなく、分かり合えなくても分かろうとすること、どうしたら相手が気持ちよく立ってくれるか考えることが大事なんだと。

そして、講師のお二人が言われたように、奈義中学校の生徒のみなさんは、自然に粘り強く分かり合おうという姿勢になれていたと思います。

 

②     命令では人の心は動かない。

生徒たちの演劇を見ていて、90秒という短い時間の中、読書に夢中なこーちゃんを立たせなければいけない状況につい焦り、「立って!立って!」と指示するような声が多かったように思います。

直接的な指示(少し強く言うと命令)では、心は動かない。こーちゃんを立たせるには彼の心を動かす必要があり、どうしたら心を動かせるか、彼に立たなきゃと思わせることができるかは、

「立って」と言いたい気持ちを抑え、できる限りこーちゃんの気持ちに寄り添い考えることで、「立って」に代わる言葉やシナリオが見つかるかもしれない。

 

演劇を通じて自分のモノサシを育てること

今回は、一人ひとりの時間が限られていたため、グループ発表が1度しかできませんでしたが、もし1度目の反省を踏まえて2度目の発表にチャレンジしていれば、こーちゃんを立たせることができたグループもいたのではないかと思います。そう思うと、題材は変わりますが、次回のコミュニケーション授業を見学するのがより一層楽しみです。

今後、中学校を卒業したら、奈義町の外へ出ていくことになる生徒も多いことと思います。将来は岡山県外、もしかしたら海外へ飛び出していくような人もいるかもしれません。

そんな中、いろんな土地で、いろんな環境で育ってきた、こーちゃんのような自分の「普通」が通じない人たちと出会い、関係をつくっていく上で、今回の授業を思い出す場面がどこかであるのではないでしょうか。

今回の授業は、将来の自分の考え方の軸となる自分のモノサシを育てることや、相手の気持ちに寄り添うことを、演劇を通じて考える良い機会になったのではないかと思います。

 

最後になりましたが、遠方よりお越しくださった講師の林さん、こーちゃんこと河野さん、有難うございました。

(草加)