奈義町の地域医療は一味違う。「奈義で地域とつながるセミナー」を開催!
9月16・17日に医師・保健師・看護師・薬剤師等を目指す学生を対象にした「奈義で地域とつながるセミナー」を開催しました。大阪医科大学、川崎医療福祉大学、山陽学園大学、就実大学に通う8名の学生が参加してくださいました。
台風18号が本州に接近する影響で開催が危ぶまれましたが、17日のプログラムを変更して実施することに。同じく17日に開催予定だった「ちょいワルの旅」は、対象者が高齢男性ということもあり参加者の安全を考慮した結果、残念ながら中止としました。
セミナー二日目は「ちょいワルの旅」に同行していただく予定だったので残念です。
当日は朝から雨が降っていました。
台風が近づいている日にわざわざ奈義まで来てくれるのだろうかとスタッフが心配していると、奈義ファミリークリニックにバス到着。参加者のみなさんがバスを降りて元気よく「おはようございます!」と挨拶をしてくださいます。
まだ始まってもいないのに「セミナー成功でした!」と喜んでしまいました。
まずは家庭医療を実践している奈義ファミリークリニックの見学。所長の松下明先生が診察室などを案内してくださいます。続いて、松下先生のレクチャー。
家庭医療(プライマリ・ケア)とは何か。大学病院などの大きい病院とは異なる、地域に根差した診療所の仕事についてお話ししてくださいます。
患者さんやご家族の「最期のときを自宅で過ごしたい」という想いを尊重する家庭医療には、さまざまなドラマがあります。医療と聞くと「臓器」や「人体」を扱うと想像されがちですが、松下先生のお話を伺っていると、家庭医療は「人生」や「家族」、そして「地域」と向き合う仕事であることがわかってきます。
家庭医療の奥深さとやりがいを感じさせるレクチャーに、参加者のみなさんは熱心に耳を傾けていました。
お昼は「奈義町の地域医療を支えるエキスパートとランチをしよう!」。看護師の福谷さん、看護師・保健師の石井さんにゲストとして参加していただき、和気あいあいと山の駅のお弁当を食べました。
現場で働いている先輩からの言葉に参加者のみなさんは興味津々。ご飯を食べるのを忘れてしまっているようでした(笑)。
午後からは奈義町現代美術館の鑑賞。雨の中の美術館も味わい深いです。
鑑賞後は、心が洗われた状態で美術館のカフェで医療やアートについて語らって、なにやらいい雰囲気です。
続いて会場を奈義町文化センターに移して、松下先生によるワークショップ。
ちょいワルじいさんプロジェクトの出発点となった研究「高齢男性の心理が社会的交流に与える影響」の紹介から始まりました。
全国的に、高齢男性は介護・支援状態になると閉じこもりがちになってしまうというケースが報告されています。ちょいワルじいさんプロジェクトでは、どのような機会や場があれば、高齢男性が介護・支援状態になっても地域とつながりを失わず、地域で輝くことができるかを検討してきました。
その一環として生まれたのが「ちょいワルの旅」です。
「ちょいワルの旅」は、男性限定の介助付き日帰り温泉旅行です。車椅子を使用している方、認知症と診断された方も安心して参加できるように、医療・介護の専門職もサポートメンバーとして同行します。
当初の予定ではセミナー参加者のみなさんにコンパニオン役として参加していただく予定だったのですが、残念ながら「ちょいワルの旅」は中止に。
今回は実際にちょいワルじいさんにお会いすることはできないのですが、代わりといってはなんですが、私(菅原)が「平井三郎」というちょいワルじいさんを演じさせてもらいました。
松下先生ご指導のもと、医療療面接のロールプレイです。
面接するのは、架空の人物・平井三郎78歳。
「俳優」という肩書の私に白羽の矢が立ち、入念な役作りをして挑みました。しかし気合を入れすぎて、予想以上に頑固おやじになってしまい、参加者のみなさんに苦労させてしまいました。すみません。
最後に松下先生の実演。さすが松下先生、平井三郎のプライドを傷つけずに心を解きほぐしていきます。
こういったコミュニケーションの技術は、医師、保健師、看護師、薬剤師など地域医療に携わる全ての人に求められる技術です。実際に医療面接を演じることでコミュニケーションの難しさや信頼関係の築き方が具体的にわかり、とても参考になったのではないでしょうか。
続いて、奈義町で37年間保健師として働き、地域に愛される肝っ玉母さん・植月尚子さん(奈義町生活支援コーディネーター)の登場です。
奈義町で保健師をされてきた37年間でやったこと感じたこと学んだことをわかりやすく楽しくレクチャーしてくださいました。
健康には「医学的健康」と「人間的健康」がある。病気を治すことと生活を楽しむことは同じくらい大切。町民の「健康」を願うのであれば、保健師から町民へ何かを指示するのではなく、町民が自ら動き出したくなるような仕掛けを作る必要がある。
松下先生は、「臓器」だけではなく「地域」を診る、そのためにはコミュニケーション技術が必要だ、とお話をされましたが、お二人のお話はとても響き合っていると感じました。お二人のレクチャーを受けることで、地域医療の神髄に触れられたのではないでしょうか。
夜は仕出し宴会さわで懇親会。
奈義ファミリークリニックの辻川先生、和田先生、保健相談センターの有元さんも駆けつけてくださり、和気あいあいと楽しい時間を過ごすことができました。松下先生の高校時代のお話や、植月さんの奈義町に対する熱い想い、そしてセミナーの参加者のみなさんが医療を志したきっかけなど、みなさんそれぞれの人柄に触れることができました。
そして、台風情報を心配しながらの二日目の朝。
外は、穏やかな天気です。雲の隙間から日が差してきて、一瞬「台風は去ったのかな」と思いました。
もし朝から暴風雨に見舞われたら午前中のプログラムを中止して、参加者のみなさんにすぐに帰っていただこうと考えていたのですが、この様子だったらいけそうです。
二日目の午前中は私(菅原)の介護と演劇を融合したワークショップを受けていただきます。奈義町で実践している「老い」「ボケ」「死」を芸術文化で捉え直す取り組み。参加者のみなさんが演劇ワークショップにどのような感想を持たれるのか、とても楽しみです。
8時50分、奈義町文化センターに到着してワークショップの準備しているときに、同僚の長田さんから私の携帯電話に連絡がありました。
「台風の影響で11時頃にJRの運転を見合わせるそうです」
「え」
「JRを利用される方がほとんどなので、これに間に合わせないと帰れなくなってしまいます」
「11時ですか」
「もう出発しないと間に合わないですね、、、、」
うそーーーーん
こんな穏やかな天気なのに!?
頭が空っぽになりました。……しかし、仕方ありません。
参加者のみなさんが帰れなくなってしまっては大変です。スタッフ間で相談した上で、ワークショップは中止にして最後に振り返りだけをすることにしました。文化センター到着された松下先生と植月さんに報告します。「それは残念です」「いや~悔しいな」
急遽、振り返りの時間です。
それでも参加者のみなさんは「自分のやりたい仕事が見つかりました」「講師のみなさんの奈義町に対する愛が伝わってきました」「また奈義町にきてみたいです」と嬉しい感想を言ってくださいました。台風の影響でプログラムを変更してしまいとても残念でしたが、奈義町の一味違う地域医療の魅力は伝わったのではないでしょうか。
9時15分、参加者のみなさんは帰られました。無事にお家に帰れますように、お祈りしながら見送りました。
(菅原の心の声「ワークショップやりたかったよ~!」)
最後に参加者のみなさんのアンケートをご紹介します!
「人間味あふれた松下先生、植月さん、地域で活躍されている医療者の方々とお話ができて、よりいっそう将来こういう医療を目指したいと思えました」
「地域の医療者が地域の人々と信頼関係を大切にしていることを、セミナーを通じて実感しました」
「実際にロールプレイをさせていただき、普段どのような活動をして地域の人々とのコミュニケーションをとっているのかがハッキリとわかりました。いかに心を開いてもらうか、信頼関係をつくることができるか、自分なりに考えて工夫していくことも、将来働いていくときに大切だと感じました」
「これまで大きな市での保健師を考えていましたが、奈義町の地域のつながりの強さに本当に魅力を感じました」
「皆さんが奈義町のことが大好きなのが伝わってきて、自分が好きな町へとみんなで作り上げていく感覚が素敵だなと思いました。小さな町だからこそできる挑戦があり、そこで生まれる一体感や人の温かさなど、奈義町ならではの魅力を多く感じました」
「今回のセミナーでより地域の人との出会いを大切にして、住民の皆さんが主体となって、生き生きと最後まで自分らしく生きていける地域づくりのサポートする人間になろうと思います。また奈義町にみんなで行きます」
参加者のみなさん、また奈義に来てくださいね!
(菅原)